ビジネスコラム|シェービングビューティ

お問い合わせはこちら シェイヴィスト
お問い合わせ

ビジネスコラム

Business column

ビジネスコラム

シェービングサロン繁盛伝シリーズ

答えは現場にあり!
シェービングサロン繁盛伝シリーズ

※前例無き「新しい業態」と格闘した、大手理美容サロン営業企画時代の実録エピソード

ストレスとスタンス

稼動ベッド3台で月間売上450万円達成!
都心部にある女性お顔剃り専門店は開業以来の売上を記録した。
2005年11月のことである。その出店形態はお顔剃り専門店としては念願の完全独立型の1店舗。ヘアサロン併設の展開から脱皮していよいよ独自性も増し、『シェービングサロン宣言』を旗印にオープン2ヶ年の業績には目覚しい勢いがあった。
当時、グループサロン理美容室1店舗あたりの稼動イスは平均9.7台で、売上は平均510万円/月。店舗面積も広くて配置人員も多い「ヘアサロンの売上モデル」と対比すると、上記実績は驚きである。サロンの坪数と回転率が要である「サイズの大きい店舗ほど高売上」という固定概念に風穴を開け、新しい可能性を指し示した。女性お顔剃り専門店は「狭小坪数でも高生産」を実践するに至った。


店舗面積は10坪未満の狭小スペース。グループサロンのおよそ1/3以下の坪数で成立する。しかもシャンプーボールなどの大掛かりな水回りは不要。独立型の出店形態にして、その初期投資、設備工事費が極力抑えられるローコストぶりも判明した。
JR駅前オフィスビル地階の商業街区に2003年秋に進出。同ビルにはすでに直営の理容室も古くから入居し、周辺の移ろいや土地鑑も知り尽くしていることからホームグラウンドの様相であった。理容室隣の別物件が空き、新規に「女性お顔剃り専門店」の出店を果たした。大手企業が立ち並ぶビジネス街へ程近く、全国的にも有名な洗練された情報発信地のエリアである。街全体で大人の女性客層を意識した景観の刷新やテナント誘致も積極的に行われ、交通の便もよいサロンの立地は「地の利」で優った。


恵まれた環境下での記録的な売上は、ブライダルの賜物である。秋のブライダルシーズンを予測し、その年初頭より結婚情報サイト『ゼクシィnet』への掲載を開始した。兼ねてより挙式前の女性客の来店が春と秋に集中していたため、効果的な宣伝を仕掛けブライダル層の拡大を図った。それまで費用をかけた広告宣伝は極めて稀。「客は店さえ開けていれば自ずと来る」という旧来の考え方が支配的で、経費を掛けて集客することに馴染みが薄かった。

一方で「女性のシェービング」を題材にした取材は進んで誘発し、パブリシティによる新聞・雑誌への掲載は年間20件以上取っていた。記事の大小もあるが広告経費に換算しても1,000万円は有に超す。それをニュースソース一本で獲得していたのである。シェービングサロンの集客性と話題性は実証済みだ。広告宣伝にはサロンの「地の利」を含め勝算があった。まして挙式前の駆け込み利用は目的も対象者も明確。『ブライダルシェービング』なるキーワードを明示して既存のブライダルコースに箔をつけた。

『ゼクシィnet』の波及効果は絶大だった。
春の婚礼期で前年最高売上を軽く上回り、秋の本格シーズンで大爆発した。それをきっかけにホームページのアクセス件数が、千単位から万単位へと劇的に伸びた。ありがたいことにサロンの情報が一人歩きして噂が噂を呼び、クチコミによる紹介客も増加。対外的な露出の頻度と知名度は向上した。ひいては姉妹店やグループサロン全体の宣伝活動を牽引する形ともなった。「シェービング×花嫁」の潜在需要の物凄さは予想だにしないエポックメイキングと成り得たのだ。


技術売上450万円の内、ブライダル売上構成比70%以上!
新規ブライダル客数250名以上!
客単価は単月で10,000円以上!
春以降、売上記録を連続更新!
普段のブライダル売上比率は30%がいいところ。70%とはお化け記録である。いつもは「7:3」でリピーター7割に歩があり、それがこの時期大きく逆転した。婚礼繁忙期の10月から11月にかけては挙式前の女性たちが殺到。サロンを愛用するリピーターの予約が取れないほど、売上の半分以上が花嫁さんたちで占めていたのである。押し寄せるブライダルの新規客に現場は「この先数週間は予約で一杯」という、うれしい悲鳴をあげた。
夏から秋にかけて総客数はほぼ同一であったが、10,000円以上の高額なブライダルコースに買いが集中し、「単価増」も売上アップの決め手となった。単月客単価は11,000円となり平均客単価8,000円に対しておよそ4割増強している。客層狙い撃ちの宣伝効果が顕著に表れ、「高単価×一定客数」の増収モデルとなった。
また遡って同年夏の売上は、その逆のパターンとなっている。季節柄レギュラーメニューが好調で「客数増」。暑さで閑散するブライダルをよそ目に、単価は据え置いても数で押し切る「高客数×一定単価」の図式だった。
すべてのメニュー群の中で「ブライダル売上構成比」が占める割合は大きい。年間を通じて売上全体の調子を測るバロメーターとも言える。しかしそれは同時に「水モノ」の危うさを物語る尺度でもあったのだ。春と秋、夏と冬では一変するブライダル。季節による明暗はその後ストレスとなった。


シェービングサロンにおけるブライダル客層の周期は春と秋に大きな波を呼ぶ。春はゴールデンウイークからジューンブライドにかけて。秋は陽気もよく、日のいい連休や週末が続き11月に山場を迎える。来店のリズムを曜日別に見ると水曜から金曜に利用する傾向が最も多い。夏と冬は世間の婚礼組数がそうであるように静まりかえる。夏場はまだいい。肌の露出が高まりレギュラーメニューの客層でカバーできるからだ。
問題は「冬の凹み」である。
最高売上を記録した翌月、前月差で売上150万円減。
翌月のブライダルは一気にしぼんだ。それでも300万円台はキープしたが。平均売上300万円/月のサロンにとって50%の増減は、まさにジェットコースター級のアップダウンである。身をもって知る「お客様の声」だった。冬場は一般的に婚礼閑散期のため例年花嫁が消える。寒さで客足が遠のく分、売上全体も目減りし、ブライダル客層が少ないと打撃を受ける。繁忙期の見入りに浮き足立ち、冬支度のバランスを欠いたしっぺ返しが「冬の凹み」に出るのだ。
ブライダル売上とは時勢や季節に左右される“薬毒関係”である。売上構成比がおよそ3割から4割では底上げも程好い。これが5割を超えると他方で「婚礼特殊色」が濃くなり、一見さん過多とし経営が安定しない。7割占有ともなれば、婚礼専門エステのように「ご用達戦略」なら別段だが、常態化するとサロン根幹の方針とかけ離れてしまう。春夏秋冬の浮き沈みには、来店客層のスタンスを把握することが必要だった。


「やりながらわかった」現象がある。ブライダルはリピートしないのだ。
数多く来店する花嫁さんたちを後追いしてもリピート率は1割も満たない。それが花嫁の本音だろう。挙式前の女性の深層心理は「挙式ありき」、「挙式あってのシェービング」という解釈なのだ。結婚してもお顔剃りに通って欲しいサロンの気持ちを前に、当の本人たちはその気が湧かない。それでも来店を強要するのは単に店側のエゴだ。現場は一連の流れに呼応して花嫁さんにとってのスタンスを整理した。
挙式前のシェービングは通過儀礼、『特別使い』のスタンス(花嫁)である。ゆえに花嫁さんたちには「一期一会」のスタンス(サロン)で最大限努める。もう挙式後の来店を無理強いしない。替わりに晴れ舞台へのサロン活用を段取り、「前倒し利用」で頻度増を促す。ブライダルの越冬対策には春先の挙式を見据え「1回おためしプラン」を推した。
ブライダル層はドル箱だが戦略上はあくまで「支流」に置いてこそなのだ。圧倒的大多数を占める「本流」とは常時レギュラーメニューを買上げ、足繁く通う「お得意様」である。ブライダル売上構成比に一喜一憂せず、レギュラー層の安定リピート化への機運を改めて理解した。永続的な関わりをもたらせる、『日常使い』というスタンスだ。
客層の特性は、あえて同系列に扱わないことで互いを知る。同じ女性客と言えども『特別使い』と『日常使い』ではシェービングに求めるスタンスが異なる。実利とともに様々なマネジメントケースを「お客様から学んだ」のである。


ある時期、ブライダルのクレームが頻出した。
挙式を間近に控えた花嫁さんからの苦情である。どのケースも技術的なミスによるものだった。いかなる理由があってもサロンご利用時に被った事故である。非は明らかだ。丁重に謝罪した後、規定に則り賠償対応を済ませる。サロンのクレーム発生件数は、客数とスタッフ数、店舗数が増えると統計上それに比例する。避けては通れない危機管理のひとつである。
好事魔多し。順調に客数も増え、売上も軌道に乗った矢先の出来事だった。なぜ今にして技術的なミスは続くのか。そのほとんどが突き詰めると「気の緩み」から生じる。ではなぜ気が緩むのか、本質はそこだ。数にかまけて「ブライダルはそれっきりだから」と、心にスキがなかったか。そして結婚式を挙げる女性の身になって真剣に考えていたであろうか。「嫁入り前の気持ち」を問いかけた。
結婚式とは人生の内で個人が大金を使う場面のひとつである。たった1日のために数百万円を費やす一世一大のセレモニーだ。それこそ数ヶ月も前から根回しや決め事に明け暮れ、ようやくその日を迎える。新郎は新婦に任せきりとなり、とくに女性はその重圧たるや相当なもの。覚悟もいる。事前の準備がすべて整ったところで自分自身の最終調整のため来店する。緊張と不安、期待が入り混じる胸中、満面の挙式当日を信じて施術ベッドに横たわる。そのひたむきな心境に、本当に、真摯に、向き合っていただろうか。
ブライダルシェービングとは、人生の門出に際して万感の祝福を享受する導火線上にある。それが「気の緩み」によって台無しになるのだ。花嫁にしてみれば一生尾を引く耐え難い屈辱である。
未婚女性たちの現場は涙した。
形だけの客目線などは言うに容易い。神聖な日を前にカミソリを持つということは、それほど責任重大なのだと。


その後ブライダルメニューは発展した。「おめでた婚」の問合せも多く寄せられ、妊婦さん対応のコースを用意。サロン滞在時間をゆっくり取り、うつ伏せの施術は避けて傾斜ある仰向けの体勢で寛げる、母体に負担のかからないサービス仕様とした。プラスオーダーには二の腕や背面中段のシェービングが依然要望が高い。ドレスのデザインに応じて肌の露出が決まり、それが剃る箇所となるためだ。そこで婚礼に必要な上半身すべてのシェービングを網羅したプラチナコースも新設した。
背中や胸元はもちろんのこと、上腕から手首、手の甲、指先に至るまで微細な部位も完全パッケージ。オプション扱いに括っていたボディパーツを精練し、シェービングの独自価値をストレートに強調する。その点は数多のリクエストを肌で感じる現場の確証もあった。価格帯を30,000円以内に定め、全1回ワンデーコースの内容で提供した。ネーミングの響きも良く売れ行きは上々。従来の最高額のブライダルコースは18,000円であったが、それ以上の反響だ。挙式前の女性の脳裏にドレスアップの華やかさと一期一会を彩るシェービングが上手くリンクしたのだ。一段上の価格設定としたことで、『特別使い』のブライダルに新たな価値交換を成立させた。


開業2ヵ年は緩急の激しい売上推移となったが、ブライダルの潮流をいち早く掴み、女性お顔剃り専門店としての実績(成長率168%)に弾みをつけた。2006年度以降は安定波形を成し、シェービングサロン1店舗の売上は年間3,000万円に上る。「稼動ベッド1台で売上100万円/月」、「スタッフ生産性は通常サロン1.5倍」に迫り、幾多の局面を乗り越えては、「地の利」を制する旗艦店の役割も担うようになった。
やがてサロンはシェービングの普遍性を『日常使い』に描き、経営資源である最多の客層に「常時視認×頻度重視」の火を焚きつけた。「シェービングサロン」は、もはや単なる「一店舗」という括りから「一事業体」へと、その戦略思考も大きな変転を迎え始めていた。

吉田昌央著:
『シェービングビューティ~だったら剃るな、でも剃るよ~』文芸社より抜粋

ビジネスコラム

シェービングサロン繁盛伝シリーズ