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シェービングサロン繁盛伝シリーズ

答えは現場にあり!
シェービングサロン繁盛伝シリーズ

※前例無き「新しい業態」と格闘した、大手理美容サロン営業企画時代の実録エピソード

シェービングサロン宣言

都内居住エリア、駅前商業施設にテナント入居するサロンの事例である。
2002年春先に開業したそのサロンは約40坪の大型店。店舗の種別は理容室でありながらも男女対象。受付を介して「男性はこちら、女性はあちら」というように、「男性用ヘアサロン」「女性用シェービングスペース」と戦略的に完全セパレートさせた設計だ。入店直後のカウンターはフロント機能となり男女顧客同士が目を合わせてしまう気まずさもなくスムーズな導線を実現した。
定番のヘアサロンを主軸に置き男性客を確保しつつ、新規にシェービングで女性客を取り込む方針だ。ヘアサロン側に理容椅子7台、セット面2台、女性専用に個室3部屋(ベッド各1台)を有する、理容の持ち味を発展させた新しいタイプのサロンとなった。当初から女性シェービング部門の売上増収を意識した出店である。これまでのような既にあるサロンスペースを有効活用するケースとは違い、独自屋号も冠されパウダーコーナー完備の「女性専用個室」を配置したのだ。
前例サロンのノウハウを元に女性専用入口はもちろんのこと、専用の待合もゆったりと設け、3個室ある施術ルーム全体を壁で間仕切り“密室の別世界”とした。これはヘアサロン側から流れ出るパーマやカラーリングの薬剤臭、ドライヤーの騒音、他客の会話などを遮断して「癒し」を徹底するためだ。店内BGMも施術ルーム専用の音響を別途に引き、女性客への配慮を「目」「鼻」「耳」に至るまで空間意匠に落とし込んだのである。
勝ち目満載の鳴り物入りでオープンしたサロンであったが、女性シェービングの部門売上は思いのほか苦戦した。なぜか・・。


現場任せのマネジメントに問題があった。
男性ヘアサロン部門は堅調に売上を伸ばす一方、女性シェービング部門は2年経過した時点でも売上は50万円を下回っていた。スタッフは男女合わせ10名以上、稼動ベッド3台でこの数字は厳しい。計画性を持ったサロンスペースではあったが中身が伴わず活かしきれていない。店舗という「器」は立派でも、そこに盛り付ける「料理」=技術サービスの出来が悪くて不味い。美味しくないのは「調理」=マネジメントがなっていないからである。ひとつひとつ紐解いて検証した。
まずは慢性的な“値引き症状群”にメスを入れた。
ヘア部門の男性カット料金は4,000円、女性シェービング部門は基本コースを4,500円に設定。オープン記念と称し、初回来店は1,000円OFFの特典をつけた。以来それが仇となり、女性客だけには毎回値引き尚も続いていたのである。毎回1,000円値引きした3,500円が事実上、正規の値段となっていた。

「今さら料金を上げることは出来ない」
「お客様が来なくなるから定価に戻せない」
「この価格で続けろと言ってたのに」
「お客様は値引き価格が当たり前と思っている」

当然である。1,000円を値引く習慣だけが根付いてしまったのだ。
これが値引きの怖いところである。自分の首を締めるも同然、常態化すると打つ手が後手に回る。お客様には買得の特典も際限の無い馴れ合いと化し、やってもやっても定価には追いつけず低料金。正価で真剣勝負していないから価値もやる気も失せる。目標の売上には到底達しないはずである。
基本コースの施術プロセス自体、技術的には落ち度は無い。むしろ優れた内容だ。だから定価での売上が立てられないことに悶々とする。初回1,000円割引の呪縛に苛まれ、女性シェービング部門は定価販売への自信を失う。現場は悪循環に陥り焦燥した。


今のままでは今のまま、大事なのはこれから先のこと。開業から2年後の2004年4月、これまでの失態と決別すべく料金改定に踏み切った。
女性シェービング部門の基本コースは40分5,000円とし、オープン来の初回1,000円割引は撤廃する。その時点で後発の姉妹店が最初期の価格設定と同じく、基本コースの料金を5,000円と定めていたこともあり店舗間の懸案でもあった価格のバラつきは止めて統一した。「税込表示価格」への切換時期とも重なり掲示物の刷新には丁度よかった。
そして来店客すべてに、次回ご利用以降は基本コース40分5,000円とする旨を告知。「女性のためのシェービング」は、より一層の内容充実に努めることを約束した。「価格」よりも「価値」で動くお客様をどう増やせるか、女性シェービング部門の真価が問われる決断だ。この機を逃せばズルズルしていただろう。何事もこちら側の取り組む姿勢が肝心なのだ。早い話、正攻法でもっと女性客を増やせばいい。サロンのキャパシティはまだ十分な余裕がある。女性客の絶対数を伸ばすため、改めてサロン一番のウリを反芻した。
「女性お顔剃り専門店、シェービングサロン」。
現場が自信を取り戻す「価値」はそこにあった。料金改定の真意は「値上げ」ではない、「価値上げ」改善である。そのためには強い意志で具体的な取捨選択をしなければならなかった。


大幅なテコ入れ策に“メニューのリストラ”も断行した。それまでのコースメニューは基本コースの他に7,000~8,000円台のレギュラーが4点、高額設定のブライダルと合わせると8コース。その構成はエステに傾斜して、全てにシェービングが入っているものの主張が弱い。どれも並列的な扱いで掴み所の無い印象しか受けず、買上は偏重気味で「売れる・売れない」がハッキリしていた。

また、オプションメニューが多過ぎた。プラス500円から1,000円程度の細かなケアが約20点。中には「シミ・しわ・ニキビ」に言及するものもある。完全にエステティックサロンを模倣した技術者目線による品揃えであった。パンフレットにも所狭しと「オプションであれもこれもできます」と、技術者の気持ちが先走った記載である。しかしそれは全体的な女性客数が少ない上、メニューの幅が広い分、オプション全般としては微々たる買上。ゼロの日も続き月間合計で10名いるかいないかだ。売上にして10,000円前後では材料費だけが高くつくような有り様だった。シェービング専門店にはおよそ無関係の「ネイルケア」や「ヘッドマッサージ」、「まつげパーマ」などもあった。

これでは司令塔も存在せず現場丸投げの放任主義が招いた無政策状態である。最大のウリ=「女性お顔剃り専門店」を政策の骨子に、真の客目線によるラインナップへと舵を切ることにした。
一番人気の基本コースを大々的に中心軸、一段上のコースを脇に配置する。散漫となる詰め込み型の施術は廃止。ブライダルは料金別に3段階のコースへと整理整頓。シェービングの施術部位は「顔全体~襟足~耳」をスタンダード、それプラス「胸元~背中」をブライダルと体系化。コースメニュー全般をシェービングメインの「カンタンさっぱり路線」に敷き直し、数量、内容ともに圧縮した。
単純明快に仕立てることで各種コースの特徴にメリハリがついた。雑多なオプションは数の出やすいパック3種を1,000円刻みに上限3,000円まで。他はすべて一掃した。そして新たに「ボディパーツシェービング」なる括りを設け、「背中」「腰」「腕」などの上半身上部は範囲別料金を明示する。嗜好性の強い商材やメニューは外し、骨太政策を施術サービスに反映してみせた。


「シェービングを希望しない方はお申し出ください」。
既存メニューのインフラ整備を進める最中、以前からあるこの一文に違和感を覚えた。女性のためのシェービング専門店であるにもかかわらず随分と煮え切らない。武器を放棄した戦いを平然とやっているものだと首を傾げた。どうやらその背景には、当時サロンに配属された理容師とエステティシャンのスタッフ同士のイデオロギー闘争が絡んでいた。経験のあるスタッフ間にはありがちな“技術者の冷戦”である。
どちらも経験者ゆえのプライドがあり、こと技術に関しては一歩も引かない。理容師はエステティシャンに出来ないシェービングを強要し、エステティシャンは理容師の持つ技術を格下に扱う。同じサロンの仲間同士、手を組むどころか双方ともに築き上げた世界観で技術論を展開する。サロンの戦略よりもスタッフそれぞれがやりたいことを優先する考えが横行した。オプションメニューの頻雑さもそれに起因するものだった。
「お顔剃り」で女性を集客すれば、後はエステティックサロンと同様の施術プログラムで素肌美を売り物にする。シェービングの必然が単なる客寄せ名目となり、表向きには「シェービング専門」だが内情は「エステメニュー」を推すという矛盾。捻じれたやり方がまかり通っていた。
実のところ「シェービングを希望しない方」に見初められたいのは、シェービング中心のサロン業務では理容師にしか仕事が回らないため、「顔剃りの無いメニュー」を用意してエステティシャンにも仕事が回るように仕向けた業務上の折衷案に他ならない。進むべき針路を曖昧にした「店の都合」こそ弱体化の元凶だ。計画性を持ってデビューした「女性用シェービングスペース」は図らずも、「理容室に内在するエステティックサロン」という歪な形となり、取り扱うメニューはどれも安っぽく映るようになってしまった。中途半端なエステなど女性客が好むはずもない。本場のエステティックに失礼である。女性客は「美味しくない料理」への回答をすでに出していた。
開店以来の低迷は我を通した挙句に行き着いた業績不振だった。対象者無視で進めるメニュー立案の体質、詰めの甘さと計略の果敢無さが露になった。数字が物語る通り、本当の戦いは専門店の「勝てるマッチメイク」そのものだ。経験豊富なスタッフにとっても従来の世界観にとらわれ過ぎて、この先サロン事業本来の機会を逸することがあってはならない。新しい概念を言語化して宣誓した。
それが、『シェービングサロン宣言』である。


同時期、商業施設側は新聞折込を頻繁に行い宣伝や集客に力を注いでいた。タイミングよく施設側から広告枠への支援を頂き、ならば「女性お顔剃り専門店」としての情報に絞込み、基本コース40分5,000円「シェービング」を強調した掲載に打って出た。高い価値提案と新規集客の強化には渡りに船だった。折込チラシを見る世代・客層こそ女性シェービング部門の未来客でもある。施設が欲しい客層とサロンが欲しい客層も符合する。地域在住の主婦、女性中高年層だ。新聞折込はひと月1回ペースでおよそ1年間継続し、それが追い風となった。

併せて店頭看板も一新。メニュー一覧型から「女性のための女性による女性だけのシェービング」を謳う一点豪華性の盤面に差し替えた。シェービングは「お顔全体~うなじ~耳」とし、フェイシャルと組み合わせ、クレンジングと眉ラインの整え、スキンケア付、40分5,000円と表記する。完全個室、女性スタッフ応対、専用予約電話、シェービングの施術写真を添え、説明要らずの構図にした。

結果は明らかだった。新規女性客が日を追うごとに増え、客数比では3倍。乗じてリピートも続出するようになり、ひと月の客数は250名を超えた。メニューの削減や料金改定の不安をよそに、客入りは減るどころか勢いよく増したのである。割引などの特典類は一切つけずとも女性は来店した。「ここは女性のためのシェービングができるところ」という極めてシンプルな情報がいかに正しく伝わっていなかったかといえる。値上げに怯えながらも品数だけは増やし、価値を埋没させ、伝える術と向き合えなかったのだ。まさに「女性のためのシェービング」を前面に出したことによる勝ちパターンだった。
その年、女性シェービング部門の増収で店舗全体の売上は大きく底上げした。「女性お顔剃り専門店」の生産性は倍増し、業績は前年比で170%、翌年160%という驚異的な伸びを果たしたのである。


人々が集まる「集客」という観点からは駅前商業施設=ショッピングモールの好立地が味方した。出店は地上三階の低層エリア、同じフロアにはマクドナルドやケータイショップが隣接し、買い物客も回遊しやすい階層だ。反面、高層階には大手エステティックサロンがあり同階には大手美容室がある。その他リラクゼーションのサロンも2件。女性客には類似の目で見られてしまう要素は少なくなかった。
しかし、それら女性客対象のサロンが絶対に真似できない唯一無二の「勝ち目」をシェービングは持っていた。知り得たのは、「顔を剃ってもらいたい」女性たちの欲求の多さである。「女性のためのシェービング」に必然性を見出した。
聞けば一時、空いてる女性個室で「男性の全身施術をそこでやる」という案も浮上したそうだ。「事業価値」という認識がまるで無いと愚想するものである。模索した中でのこれら手応えが新たな業態像の輪郭を固めていった。

吉田昌央著:
『シェービングビューティ~だったら剃るな、でも剃るよ~』文芸社より抜粋

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