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シェービングサロン繁盛伝シリーズ

答えは現場にあり!
シェービングサロン繁盛伝シリーズ

※前例無き「新しい業態」と格闘した、大手理美容サロン営業企画時代の実録エピソード

新たなる屋号

今でこそ「女性お顔剃り専門店」「シェービングサロン」と、ひとことで言い表しているが開発当初からそのような称号や概念は無かった。
ただ、何か新しいカタチにした方がいいとの確信はあった。
遡ること十数年前の1999年夏。
都内に多店舗展開する理容室の営業企画として来るべきシェービングビジネスを見越し、新たな女性客層の開拓に取り組んだ。折りしも世の女性は、より自然なメイクアップには「お顔剃り」が最適と気付き、ちょっとしたブームに沸いていた。業界でも話題となり女性たちがシェービングを求めて街の理容室に通い始めた頃である。
当時その理容室の店舗規模は椅子8台のメンズサロン。カット総合料金で4,500円。立地は都心部の地下鉄駅に隣接するオフィスビル地階テナント。中高年のビジネスマンが客層の大半で、スタッフは男性5名、女性5名。月平均700万円を売り上げ、一般的な理容室の中では中規模から大型店に相当する。さらにビジネスマン対象のサロンには特長的な上客用のVIPルームが離れの間に半個室スペース2部屋分(椅子2台)あった。このVIPルームは男性客の寛ぎの場に重宝されていたが常時回転はしておらず、いわばデッドスペースと化していた。ここを有効活用する手はないか、との命がきっかけで始動したのが「女性お顔剃り」の本格的なプランニングである。
それ以前、お顔剃りの女性客は少なからずいたが、たかが知れた数。通常では女性など寄り付かないバリバリの男の店だ。現行のサロンサービスを下敷きに「レディースシェービング」を新たな切り口でビジネス展開するには、何をどうすればよいのか。巷にできた新種の「エステサロン」のように・・、女性が入りやすい「ユニセックスサロン」風の・・その程度ではダメ。すでに存在するイメージの上書きではサロンのメニュー化は図れても大きな事業には至らない。現場スタッフとの試行錯誤、知恵を出し合う日々が続いた。


まずは「やってみよう」と店舗の設備面から手をつけた。VIPルームに直接ご案内できる女性の専用入口を新たに設けた。これは男性客の目を遮断することと、男子スタッフの往来を制限するためだ。施術個室の間仕切りには天上にカーテンレールを敷き、厳つい理容椅子にはベージュのブランケットを被せ、照明はダウンライトの調光を取り付け、インテリアも女性受けしやすいものに整えた。女性スタッフが多く配置されていたことも手伝い、限られたスペースでありながらも比較的センスよくまとめることができた。

提供するメニュー構成は「シェービング」を前面に打ち出すことにした。「エステ」を組み入れた技術指導や教育は盛んに行っていたが、「シェービング」の独自路線、レディースシェービング主体の一点豪華性に努め、意図的にメインコース1点とサブコース1点、大きくはふたつのコースメニューに絞り込んだ。
品目はたったの二つだけである。
スタート時は試験的な導入ともあり、はじめから「あれもできます、これもできます」は避け、あえて「これしかできません」ほぼ一点買いのラインナップを強調。そして本体の理容室とは別個の考えを持つ「独立国家」としての戦略を立案。いわゆる「サロン内サロン」の方針を皆が共有して認め合い、男性専科のヘアサロン内にあってもこの場所だけは女性の聖域であると標榜した。
究めつけは「新たな屋号」である。
それを命名することで後の方向性を決定付けた。
サービス体制も、女性限定、女性スタッフがすべて応対、完全個室、男子禁制、専用予約電話、都度払い、メイクはしたままでご来店OK、施術後のメイクはセルフサービスなど、できることは可視化して周知する。こうしてレディースシェービングを取り巻く環境に変革をもたらせた。
カットスタイリングが主流である通常業務に対して、「顔剃りは片手間でアシスタントがやるもの」というサロンの不文律に一石を投じ、「シェービングは女性にこそ必要」と言い切るコアな意識が芽生え始めたのである。


対象となる女性客層、年齢層もそれに合わせて狙い打ちする。25歳以上の仕事を持つ未婚の女性を想起。最初期のピーアールは、会社帰りOK、顔色がいつもくすみがちな方、デート前に、記念日に、月一回のご褒美、気分転換に、挙式用にと、女性がシェービングを望むであろう場面をいくつか並べてメリットを謳う。
興味深いのは当初は確固たる「ブライダル層」が見えていなかったことである。
提供する女性スタッフ陣も当時はすべて未婚者であったためか、来店する女性客が実際には何を所望されるのか手探りだった。後に、用意したメニューの内容にシェービングを「特別使いする女性客」がいるとわかった点は大きい。挙式前のシェービング「ブライダルコース」は今やドル箱カテゴリーだ。その出所は施術の構成から価格帯、告知宣伝に至るまで「やりながら」顕在化させることが出来た例である。
始めは漠然としていても積み重ねるうちに「こういう利用のされ方なのか」と傾向が読める。思いもよらぬ反応がサロンの実態を外側から知るきっかけとなった。女性客の声なき声は「売上」と「客数」に表れるからだ。
そして現場は肝心な価格設定で大もめとなった。


レディースシェービングのメインコースは40分で5,000円に決めた。

「レディースシェービングで5,000円は客がこないよ」
「カット料金が4,500円なのになぜ」
「どうしてシェービングだけで5,000円もとるのか?」
「シェービングの基本メニューで5,000円は高い」
「5,000円はどうなんだろう」
「4,000円だって来るかどうか」
「初回は1,000円OFFにした方がいいよ」

価格設定はもめた。現場スタッフからの猛反発があった。
理容室のシェービングで5,000円以上、カット料金以上の前例は無い。まして女性客に向けたサービスで。男性向けサービスでもシェービングは単品で2,000円がいいところ。パックやアフターケアのエステティックをオプションで付け加えて初めて5,000円以上になる。それでも「シェービング目的の来店」は稀だった。
スタート初期の価格設定はとくに重要である。シェービングを名実とも主役級に引き上げるため、「刈って剃って洗って」の総合料金は端から邪魔だった。「すべてワンセットで4,500円、だから単品では大体この値段です」とする、ありがちな値付け手法は一切無視。周辺の理容室が行っているレディースシェービングの料金はいたって安価、片手間料金の類も排除した。
業界の論法に縛られず独自路線を貫くことで「価値対価格」が見えてきた。女性シェービング専門店を看板に掲げるからには、価値を明確にして価格にも反映させなければならない。そのためターゲットの女性層が美に抱く欲求と関心、それらに掛ける金額を注視した。例えば、美容室やエステ、ネイル、コスメ、あるいはグルメや温泉旅行などの消費行動である。可処分所得を多く有する未婚の働く女性たちにとって、そこに「価値交換」が成立すれば5,000円とは決して高い金額ではなかったのだ。


シェービングを価値ある技術商品にしよう。最初から申し訳なさげの価格帯では後からは上げられない。価値に見合う価格とは自ら堂々と決める。打破しなくてはならないのは、提供する側が自分たち中心の思考パターンを元に額面だけを見て勝手に「高い」と思い込んでしまうクセであり、料金を戴くことに罪悪感を覚える悪しき商習慣そのものだ。
安価なら来店するだろう、では顧客に無礼である。
価値を引き上げずに価格のみ引き下げるのは、顧客に対する甘えだ。築いてきた技術サービスには誰にも負けぬ誇りや愛着があるはず。男性スタッフ以下、女性スタッフにもサービスマンシップに資する「価値」を明文化して訴えた。自分たちが普段行っているシェービング技術ひとつとってもこれほどの値打ちがあることを。そして世の女性は、それを待ち望んでいることを。


コースメニューの表記も工夫を凝らす。「クレンジングから入ります、スチーミングで顔を蒸します、ラザーリングで泡をのせ、フェイスシェービングは滑らかな一枚刃で行います、フェイシャルで肌の調子を整え、冷タオルでクールダウン、潤いを与えて仕上げます」という具合に、仕事ひとつひとつのきめの細やかさを丁寧にわかりやすく解説した。
見落としがちなのは「剃るところの緻密さ」である。
顔剃りといっても、「シェービング」ひと言で済ませてしまう技術者の視点も、女性客には不親切だ。「どのあたりまで剃ってくれるの?」への回答が含まれるとありがたい。だから「おでこ~まぶた~眉間~まゆ毛~目の下~ほっぺ~鼻すじ~小鼻~口回り~あごライン~もみあげ」と普段の言葉を列記して、路面の予告看板にデカデカと表示した。配色の妙と合わさり内々からは“品の無い看板”と揶揄されたが、掲出するや道行く女性たちの目に留まり常設の案内パンフは連日瞬く間に無くなった。
客目線の見せ方は「わかりやすさ」が第一である。こちら側が意図する狙いに上手く導けるかどうか。女性客の声をスポイルしても強みを生かすには「エステ」に類するカタカナ用語は一切使わず、徹底して「シェービング」にこだわった。
導入初月の売上は約25万円、1日平均2名の来客。
新規女性客の動員にはマスコミリリースで話題を提供し、新聞・雑誌・TVの取材を次々誘発させ露出度を高めた。半年後その甲斐もあり、2000年1月掲載の女性情報誌『OZマガジン』特集記事で火が点いた。ひと月の来店客数は一気に100名を突破、売上構成比も一割を超えるようになった。


「やってみること」からのスタートであった。まだこの時点では集客策が当たっただけに過ぎず、女性にとって「何のため」にやることなのか、女性お顔剃り専門店の集積や本質的な回答を持ち合わせていない。「やりながら」発見、修正の繰り返し。事業として醸成するには、やはり実践という成長過程が必要だった。

吉田昌央著:
『シェービングビューティ~だったら剃るな、でも剃るよ~』文芸社より抜粋

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